嗅覚障害

視力が低下したり、耳が聞こえにくかったりしたら、眼科や耳鼻咽喉科に行くと思います。それでは、においがしなくなったらどうしますか?ずばり、耳鼻咽喉科に来てください。においがしないのは、嗅覚障害であり、鼻の病気です。そこで、今回は、比較的耳慣れしない疾患である、嗅覚障害について話します。

「鼻のどこでにおいを感じるか」

一口に鼻の穴といっても、内部は複雑な形になっています。においを感じるところは、鼻の穴の天井にあたる部分で、嗅裂という部分にある、嗅粘膜です(図1)。このように、鼻の奥にあるので、少し鼻が詰まると、においが奥まで入っていかなくなります。また、嗅粘膜は面積が小さいので、炎症を起こすと嗅覚の感度に影響が及びやすいのです。



「においを感じなくなる原因」

最近は、テレビの健康番組の影響もあり、アルツハイマー病を疑って嗅覚検査を受けられる方もおられますが、ほとんどは、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、感冒後嗅覚障害、頭部打撲です。確かに、アルツハイマー病やパーキンソン病の初期から嗅覚異常がおこることが知られているので、「認知症初期」イコール「嗅覚低下」と短絡される方もおられますが、他の原因がほとんどです。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎では、単純に鼻が詰まることが原因です。感冒後嗅覚障害は、風邪の後に、においが分からなくなるものです。風邪の最中ににおいが分からないのは、鼻が詰まるからで、ちょっと違います。感冒後に、風邪が完治したのに、においだけが分からないのが、この疾患です。味覚の障害が合併することもあります。原因は、風邪のウイルスが嗅神経を侵すためです。頭部打撲は、鼻から脳へつながる嗅神経が切れたりするためで、回復不能になったりすることも珍しくありません。交通事故や労災事故で前頭部を打撲した時が多いようです。

「嗅覚障害の治療」

においがしないと気が付いたら、早急に耳鼻咽喉科を受診してください。内科や脳神経外科に行かれる方もいますが、専門ではないので、お勧めできません。

 耳鼻咽喉科へ受診されると、まず鼻内の診察をしたのち、嗅覚検査をします(図2)。嗅覚検査は、T&T検査とも呼ばれており、5種のにおいを、薄いものから濃いものへ順番に嗅いでもらい、においが有るか無いかわかるか、においの質がわかるか調べます(図3)。また、静脈性嗅覚検査といってアリナミン注射を用いた検査もあります。これは、アリナミンの静脈注射をすると、ニンニク臭がする現象を利用した検査で、鼻が詰まっていても、このニンニク臭がするので、鼻詰まりがにおいがしない原因かどうかを判定するのに役立ちます。

 このような検査の結果、嗅覚に異常が見つかった場合、治療が行われます。治療には、ステロイド点鼻薬と内服薬が用いられます。内服は、定まった薬はないですが、ビタミン剤や漢方薬などが使用されることが多いです。また、副鼻腔炎が原因の場合は、手術により副鼻腔炎自体を治療する必要があることもあります。

嗅覚障害は、専用の治療薬が無く、また確立された治療法もまだありません。従って、原因が他の病気にあるなら、その病気をまず治療することが必要で、他の病気のためでないなら、現時点において効果がありそうな薬による治療となります。期間としては、3か月から2年といったところです。一旦、嗅神経が障害されると、たとえ治っても、回復には長い時間がかかることも珍しくなく、あせらず根気よく治療していくことが大切です。





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